なぜ中国は初期段階の都市計画・建築設計を外資設計事務所に依頼するのか? 外資が呼ばれなくなるきっかけは?

目次

第1部: 外資設計事務所に依頼する理由

中国の都市開発や大型建築プロジェクトにおいて、外資系設計事務所が初期の概念的な計画や設計のフェーズのみを担当し、その後の実施に近い設計や監理業務は中国国内事務所が引き継ぐ――この構図は業界関係者にはおなじみの光景です。
「概念設計は利益が出しづらいから外資に任せているのでは?」という声もよく耳にしますが、果たしてそれだけが理由なのでしょうか。
本記事では、外資設計事務所の立場から、この発注構造の背景と本質を掘り下げます。


基本設計=利益が出しづらい?その真偽

確かに、基本設計フェーズはプロジェクト全体の設計報酬に占める割合が小さく、国内設計事務所にとっては実施設計や監理業務ほどの収益が見込めません。
一方、外資設計事務所はブランド力や独自のデザインノウハウを武器に、基本設計のみでも十分なフィーを獲得することが可能です。
「利益が出しづらいから外資に押し付けている」というよりも、「外資のデザイン力を効率よく活用したい」という発注者側の意図が色濃く反映されています。


外資設計事務所が選ばれる本当の理由

1. 国際的イメージと差別化

外資設計事務所の起用は、プロジェクトの国際的なイメージアップや差別化に直結します。
ランドマークや大規模開発では、外資のネームバリューがプロジェクトの価値を高め、投資家や市民へのアピール材料となります。

2. デザインの独自性とスピード

外資事務所は、グローバルなトレンドや独自のデザイン言語を持ち込み、短期間でインパクトのある提案を行うことが得意です。
中国の開発スピードに応えるためにも、基本設計段階での外資活用は理にかなっています。

3. 国内法規・施工技術への適応

中国の建築基準や施工技術は独自性が強く、実施設計以降は免許とノウハウ両方の観点で国内事務所がローカライズして対応する方が効率的です。
外資はアイデアとコンセプトを提供し、国内事務所が現地事情に合わせて具現化する――この分業体制が定着しています。

4. 政策的・象徴的な意味合い

国家プロジェクトや都市の顔となる案件では、外資設計事務所の起用自体が「国際化」や「開放性」の象徴となります。
これは中国の都市戦略やブランディングの一環とも言えるでしょう。


外資設計事務所にとっての「基本設計のみ受注」の価値

外資設計事務所にとって、基本設計フェーズのみの受注は必ずしも不利ではありません。
むしろ、ブランド力の維持やポートフォリオ拡充、グローバルなネットワーク構築の観点から、積極的に受注するケースも多いのです。
また、基本設計段階でのクリエイティブな提案力こそが外資事務所の強みであり、そこに特化することで競争力を維持しています。


第1部まとめ: 外資のデザイン力・ブランド力の戦略的活用

「利益が出しづらいから外資に依頼する」という見方は一面の真実ですが、
実際には、外資のデザイン力・ブランド力を戦略的に活用し、プロジェクトの価値やイメージを最大化するための合理的な選択です。
中国の都市開発における外資設計事務所の役割は、今後も進化し続けるでしょう。

第2部: 外資設計事務所に仕事が回らなくなるきっかけは?

外資設計事務所に仕事が回らなくなるきっかけとして考えられる要因は、以下のようなものが考えられます。


1. 中国国内設計事務所の実力向上・ブランド力強化

  • デザイン力・国際感覚の向上
    中国国内の設計事務所が、海外での経験や国際的な人材の登用、デザイン教育の充実などにより、外資と同等レベルのデザイン力や国際的なセンスを持つようになれば、外資を起用する必然性が薄れます。
  • 国内ブランドの台頭
    国内設計事務所が中国内外で受賞歴や実績を積み、ブランド力を高めれば、発注者も「中国ブランド」を前面に出すことを選ぶようになります。

2. 政策的な外資排除・国産化推進

  • ナショナリズムの高まり
    政府が「中国独自の都市・建築文化の発展」を強調し、外資設計事務所の起用を制限する政策を打ち出す可能性があります。
  • 外資規制の強化
    外資系企業への参入規制や、設計資格・入札要件の厳格化など、制度的に外資の参入障壁が高まることも考えられます。

3. 経済環境・コスト意識の変化

  • コスト削減圧力の強化
    経済成長の鈍化や不動産市況の悪化により、プロジェクトのコスト削減が最優先となり、外資設計事務所の高額なフィーが敬遠されるようになる可能性があります。
  • 為替や国際情勢の変動
    為替レートの変動や国際的な摩擦(米中対立など)により、外資設計事務所のコストやリスクが増大し、発注側が国内事務所を選好する動きが強まることもあり得ます。

4. テクノロジーの進化と設計プロセスの変化

  • BIM・AI等の普及
    設計プロセスのデジタル化が進み、BIMやAIによる設計自動化が一般化すれば、設計の差別化要素が薄れ、外資の「独自性」や「ブランド力」が相対的に弱まる可能性があります。
  • グローバルな設計ノウハウの一般化
    情報共有やオープンソース化が進み、グローバルな設計ノウハウが国内設計事務所にも広く行き渡れば、外資の優位性が低下します。

5. 国際関係の悪化・地政学リスク

  • 米中・中欧関係の悪化
    政治的な緊張や制裁措置により、欧米系設計事務所の中国市場参入が困難になることも考えられます。

6. 発注者側の意識変化

  • イメージ戦略の変化
    「外資ブランド」よりも「中国オリジナル」や「地域性」を重視するトレンドが強まれば、外資起用の動機が減少します。
  • プロジェクトの性質変化
    国際的なランドマークよりも、地域密着型・実用性重視のプロジェクトが増えれば、外資の出番が減る可能性があります。

第2部 まとめ:より多面的な価値を提供できる外資へ

この構造が崩れるきっかけは、国内設計事務所の実力向上、政策的な外資排除、コスト意識の変化、テクノロジーの進化、国際関係の悪化、発注者の意識変化など、複数の要因が複合的に絡み合うことで生じます。

特に近年は、中国国内設計事務所の急速な成長やナショナリズムの高まり、経済環境の変化が顕著であり、外資設計事務所は今後ますます厳しい競争環境に直面することが予想されます。
外資としては、単なる「ブランド」や「デザイン力」だけでなく、現地適応力やコスト競争力、テクノロジー活用など、より多面的な価値提供が求められる時代に入っていると言えるでしょう。

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