日本居住者が株式インデックスのみでポートフォリオを組む際の日本株割合の合理的な決め方はいくつかの考え方があり、ご自身の状況や投資方針によって最適な割合は変わってきます。
絶対的な正解はありませんが、合理的な判断を下すための主要なアプローチをいくつかご紹介します。
目次
1. グローバル時価総額比率に合わせる(客観的基準)
- 考え方: 世界の株式市場全体に占める日本株の時価総額の割合をそのまま採用する方法です。これは、市場の効率性を信じ、特定の国に偏らず、世界経済全体の成長を取り込もうとする考え方に基づきます。
- 具体的な割合: MSCI ACWI(オール・カントリー・ワールド・インデックス)やFTSEグローバル・オールキャップ・インデックスなどの全世界株式インデックスにおける日本株の構成比率です。2024年5月現在、おおよそ5~6%程度です。
- 合理的と言える理由:
- 最も広範な国際分散投資が実現できる。
- 特定の国への過度な依存リスクを避けられる。
- 「全世界株式インデックスファンド(オール・カントリー型)」を1本購入するだけで実現でき、手間がかからない。
- 考慮点: 日本人にとっては、為替リスクを直接的に負うことになります。
2. ホームバイアスを考慮して、グローバル時価総額比率より少し高める
- 考え方: 多くの国の投資家は、自国の株式をグローバル時価総額比率以上に保有する傾向があり、これを「ホームバイアス」と呼びます。日本人投資家が日本株の比率を少し高めることには、いくつかの合理的な理由があります。
- 具体的な割合の目安: 例えば、10%~30%程度。この範囲に明確な根拠はありませんが、多くの個人投資家が採用している水準感です。
- 合理的と言える理由:
- 為替リスクの低減: 将来日本円で生活する上で、資産の一部を円建て(あるいは円に連動しやすい)資産で持つことは、為替変動リスクをある程度ヘッジする効果があります。
- 自国経済への親近感と情報収集の容易さ: 日本の経済や企業の情報は日本語で容易に入手でき、理解しやすい。
- 税制や制度の理解: 日本の税制や取引制度に慣れている。
- 心理的な安心感: 自国の経済や企業に投資することによる安心感。
- 考慮点: 国際分散の効果はやや薄まりますが、上記メリットとのバランスで判断します。
3. 将来の支出通貨(日本円)を強く意識する
- 考え方: 将来、特に老後などの大きな支出が主に日本円で発生する場合、その支出に備えて円資産の比率を高めるという考え方です。株式ポートフォリオ全体の為替リスクを抑制する狙いです。
- 具体的な割合の目安: 例えば、30%~50%程度。ただし、この水準まで高めると、日本経済への依存度が高まるため、慎重な判断が必要です。
- 合理的と言える理由:
- 将来の円建て支出に対する購買力維持。
- 円高になった場合の外貨建て資産の目減りリスクを緩和。
- 考慮点:
- 日本の経済成長が他国に比べて低い場合、機会損失の可能性。
- カントリーリスク(日本固有のリスク)の影響を大きく受ける。
- 株式以外の資産(預貯金、国内債券、不動産など)で既に円資産が多い場合は、株式ポートフォリオでさらに日本株比率を高める必要性は薄れます。
ご自身の状況に合わせて判断するための補助的な質問
- 年齢・投資期間: 若くて投資期間が長ければ、多少リスクを取ってグローバルな成長を追求しやすく、日本株比率は低めでも良いかもしれません。リタイアが近い場合は、為替リスクを抑えるために日本株比率を高めることも一考です。
- リスク許容度: 為替変動リスクや、特定の国への集中リスクをどの程度許容できるか。
- 他の資産状況: 預貯金、個人向け国債、不動産(国内)など、他の資産で既に円資産を多く持っているか。もしそうなら、株式ポートフォリオでは日本株比率を低めにしてもバランスが取れる場合があります。
- 日本経済への見通し: 日本経済の将来性について、ご自身がどう考えているか。
まとめと具体的な行動指針
- 出発点: まずはグローバル時価総額比率(5~6%)を基準として認識します。
- これは、特定の国の経済に大きく依存せず、世界全体の成長を取り込むという観点での基本形です。
- 調整: 次に、ご自身のホームバイアス、将来の支出通貨、リスク許容度、他の資産状況などを考慮して、日本株の比率を調整します。
- 一般的な調整範囲: 多くの場合、グローバル時価総額比率よりは少し高め、例えば10%~30%程度に設定する方が、日本人投資家にとっては心理的な安心感や為替リスクの観点から現実的な落としどころとなることが多いです。
- それ以上に高める場合: 日本株比率を30%以上に高める場合は、日本のカントリーリスク(日本経済への依存度が高まるリスク)と、国際分散効果が薄れる点をより慎重に考慮する必要があります。日本の成長性に対する強い確信があるか、あるいは株式以外の資産(預貯金、国内債券など)が極端に少ない場合などに検討の余地があります。
- 他の資産とのバランスを考慮する:
- 株式ポートフォリオだけでなく、預貯金、個人向け国債、不動産(ご自宅など)といった総資産全体で円資産と外貨資産のバランスを見ることが非常に重要です。
- 例えば、預貯金の大部分が日本円であり、国内に持ち家もある場合、既に円資産の比率は高いと言えます。この場合、株式ポートフォリオでは無理に日本株比率を高めず、国際分散を重視する(日本株比率をグローバル時価総額比率程度に抑える)という判断も合理的です。
- 最終的な判断はご自身で:
- 提示された情報はあくまで一般的な考え方や参考例です。ご自身の投資目的、リスク許容度、将来のライフプランなどを総合的に勘案し、ご自身が納得できる比率を決めることが最も重要です。
さらに踏み込んだ検討ポイントと具体的なポートフォリオ例
日本株の割合を決める際に、ポートフォリオ全体の中で日本株にどのような役割を期待するのかを明確にすると、より判断しやすくなります。
- 成長期待: 日本経済や日本企業の今後の成長に期待するのか。
- 安定性(為替リスクヘッジ): 主な生活通貨である円での資産価値の安定を重視するのか。
- 分散効果: ポートフォリオ全体のリスクを低減する効果を期待するのか(ただし、日本株比率を高めすぎると逆に集中リスクとなります)。
具体的なポートフォリオ構成例(株式インデックスのみの場合)
以下にいくつかのパターン例を挙げます。これらを参考に、ご自身の考えに近いものを見つけてみてください。
パターンA:シンプル・グローバル分散重視型
- 構成:
- 全世界株式インデックスファンド(日本株を含むオール・カントリー型):100%
- (この場合、日本株比率は自動的に約5~6%になります)
- メリット:
- 管理が非常に楽(1本で完結)。
- 最も広範な国際分散投資が実現できる。
- 世界経済の成長を効率的に取り込める可能性がある。
- デメリット:
- 日本人投資家にとっては、為替リスクを直接的に負う割合が大きい。
- 日本経済が相対的に好調な局面でも、その恩恵は限定的。
- 向いている人:
- 投資の手間を最小限にしたい人。
- 特定の国に偏らず、世界経済全体の成長に賭けたい人。
- 為替リスクを許容できる、または長期投資でリスクを吸収できると考える人。
- すでに他の資産(預貯金、国内不動産など)で十分な円資産を保有している人。
パターンB:ホームバイアス適度考慮型
- 構成例1(日本株比率15%程度を想定):
- 先進国株式インデックスファンド(日本を除く):70%
- 新興国株式インデックスファンド:15%
- 日本株式インデックスファンド:15%
- 構成例2(日本株比率20%程度を想定):
- 全世界株式インデックスファンド(日本を除く):80%
- 日本株式インデックスファンド:20%
- メリット:
- グローバル分散を維持しつつ、日本人にとって馴染み深く、為替リスクも多少抑えられる日本株の比率を高められる。
- 自国経済への安心感や期待をポートフォリオに反映できる。
- デメリット:
- オール・カントリー型に比べると、わずかに管理の手間が増える(複数のファンドを組み合わせる場合)。
- 日本株比率を高める分、国際分散効果はやや薄まる。
- 向いている人:
- グローバルな視点を持ちつつも、一定程度は自国通貨建て資産(日本株)を持ちたい人。
- 為替リスクをある程度コントロールしたいと考える人。
- 日本経済の成長にも一定の期待を持っている人。
パターンC:日本円での将来支出重視型
- 構成例(日本株比率30%~40%程度を想定):
- 先進国株式インデックスファンド(日本を除く):50%
- 新興国株式インデックスファンド:10%~20%
- 日本株式インデックスファンド:30%~40%
- メリット:
- 将来の日本円での支出に対して、為替変動リスクをより大きく抑制できる可能性がある。
- 国内資産が少ない場合に、株式ポートフォリオで円資産の比率を高めることができる。
- デメリット:
- 日本のカントリーリスク(経済停滞、少子高齢化、自然災害など)の影響をより大きく受ける。
- 国際分散の効果がパターンAやBに比べて低下し、世界的な好景気の恩恵を受けにくい可能性がある。
- 日本経済が他国に比べて長期的に劣後した場合、機会損失が大きくなる。
- 向いている人:
- 将来の支出の大部分が日本円であり、為替リスクを強く懸念している人。
- 株式以外の資産(預貯金など)が少なく、ポートフォリオ全体で円資産比率を高めたい人。
- 日本の経済や企業に対して比較的強気の見通しを持っている人。
日本株比率を決める上での追加的な考慮事項
- 投資経験と知識:
- 投資初心者の方は、まずは管理がシンプルなパターンA(オール・カントリー型)から始めるのが無難です。
- 投資経験を積む中で、ご自身の考えが明確になってきたら、パターンBやCのように自分で比率を調整していくのも良いでしょう。
- 相場観(過信は禁物):
- 「今後は日本株が強いはずだ」といった短期的な相場観で比率を大きく変えるのは、インデックス投資の長期分散の趣旨から外れる可能性があります。長期的な視点での合理性を優先しましょう。
- リバランスの考え方:
- 一度決めた比率も、市場の変動によってズレてきます。定期的に(例えば年に1回)ポートフォリオを見直し、当初決めた比率に戻す「リバランス」を行うかどうかも検討しましょう。リバランスを行う場合は、比率を自分で調整するパターンBやCの方が適しています。
日本株インデックスの選択肢
日本株インデックスファンドを選ぶ際には、連動対象となる代表的な指数があります。
- TOPIX(東証株価指数): 東証プライム市場全銘柄(2022年4月以降は段階的に移行)を対象とし、時価総額加重平均で算出。市場全体の動きを反映しやすい。
- 日経平均株価(日経225): 東証プライム市場上場銘柄の中から日本経済新聞社が選定した225銘柄の平均株価。値がさ株の影響を受けやすい。
- JPX日経インデックス400: 収益性などに基づき選定された400銘柄で構成。クオリティを重視した指数。
どの指数を選ぶかは好みや考え方によりますが、最も広範な分散という意味ではTOPIX連動型が一般的です。
最終的なアドバイスの再確認
- 完璧な正解はありません: 他の人がこの比率だから、という理由だけで決めるのではなく、ご自身の状況と照らし合わせて、最も納得できる比率を見つけることが重要です。
- 定期的な見直し: ライフステージの変化(結婚、出産、退職など)や、経済状況の変化、ご自身の考え方の変化に合わせて、日本株の比率を含むポートフォリオ全体を定期的に見直すことをお勧めします。
- シンプルイズベストも一考: 迷ったら、まずはパターンA(オール・カントリー型100%)で始めてみて、必要に応じて調整していくというのも有効なアプローチです。
これらの情報が、あなたのポートフォリオにおける日本株割合の合理的な決定に役立つことを願っています。