その技術、本当に儲かる?「戦略的財務」があなたの市場価値を上げる!(3)実践!自社と競合の財務分析

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ステップ2:自社と競合の財務分析 – 戦略的洞察を得る

理論を学んだら、次は実践です。まずは最も身近な自社の財務諸表を読み解き、さらに視野を広げて競合他社の財務状況と比較することで、より深い洞察を得ることができます。

1. 情報収集の実践:どこで何を見るか

有価証券報告書・決算短信:

上場企業であれば、金融庁のEDINET(Electronic Disclosure for Investors’ NETwork)システムや、自社のIR(Investor Relations)ウェブサイトで公開されています。

EDINET 精読ポイント

  • 第一部【企業情報】第1【企業の概況】: 主要な経営指標等の推移、沿革、事業の内容など、会社の全体像を把握。
  • 第一部【企業情報】第2【事業の状況】:
    • 1【経営方針、経営環境及び対処すべき課題等】: 経営陣が現状をどう認識し、将来どのような方向を目指しているか。自社の戦略と自身の業務を結びつけるヒントが得られます。
    • 3【事業等のリスク】: どのようなリスクを認識しているか。技術開発に関連するリスク(技術陳腐化、知財紛争など)も記載されていることがあります。
    • 4【経営者による財政状態、経営成績及びキャッシュ・フローの状況の分析(MD&A)】: 経営者自身の言葉で財務状況や業績が分析されており、非常に重要な情報源です。数値の背景にあるストーリーを読み解きましょう。
    • 5【経営上の重要な契約等】、【研究開発活動】: 技術者にとって特に注目すべき項目。研究開発費の総額主要な研究開発テーマ、成果などが記載されています。
  • 第一部【企業情報】第5【経理の状況】: 財務諸表本体と注記情報。

IR資料・アニュアルレポート・株主総会資料:

決算説明会資料統合報告書(アニュアルレポート)は、財務情報に加えて、事業戦略、ESG(環境・社会・ガバナンス)への取り組みなど、非財務情報も豊富に含まれており、企業の全体像を理解するのに役立ちます。

業界団体レポート・アナリストレポート:

業界全体の動向や、証券アナリストによる専門的な企業分析レポートも参考になります(入手が難しい場合もあります)。

2. 定量分析の実践:数字から変化と特徴を読み解く

  • 時系列分析 (Trend Analysis): 過去3~5年程度の財務データを比較し、売上高、各利益、主要な費用項目、財務指標などがどのように変化してきたか(増減率、構成比の変化)を分析します。成長トレンド、収益性の改善・悪化、投資の積極性などが見えてきます。
    • 例: 研究開発費の対売上高比率が年々上昇しているか?それは積極的な投資の結果か、あるいは売上減少による相対的な上昇か?
  • 競合比較分析 (Cross-sectional Analysis / Benchmarking): 主要な競合他社(できれば複数社)を選定し、同じ会計年度の財務指標(収益性、効率性、安全性、成長性など)を比較します。自社の強み・弱みが相対的に明らかになります。業界平均との比較も有効です。
    • 指標例: 売上高営業利益率、ROE、ROA、自己資本比率、研究開発費率、一人当たり売上高・利益など。
    • 注意点: 会計方針の違い(特に減価償却方法や研究開発費の処理)、事業セグメントの違いなどが比較可能性に影響を与えるため、単純な数値比較だけでなく、その背景も考慮する必要があります。
  • コモンサイズ分析 (Common-size Analysis / Vertical Analysis): B/Sでは総資産、P/Lでは売上高を100%として、各勘定科目の構成比率を分析します。期間比較や競合比較に用いることで、構造的な変化や特徴を捉えやすくなります。
  • 例: P/Lで売上原価率や販管費率が競合と比べて高いか低いか、その要因は何か?

3. 定性情報の加味と事業理解の深化:数字の裏側を読む

  • 財務数値は結果であり、その背景には必ず事業活動や経営判断があります。数値分析と合わせて、MD&A(※)、経営方針、業界ニュース、技術動向などの定性情報を加味することで、より深い理解が得られます。
    • (※ )MD&Aとは、「経営者による財政状態及び経営成績の検討と分析」(Management’s Discussion and Analysis)の略。上場企業の有価証券報告書に記載される、経営者自身が財務諸表の内容を説明し、将来の見通しを語る重要な開示項目。
  • 「なぜこの数字は増えたのか?」「なぜ競合よりこの指標が低いのか?」といった疑問を持ち、その答えを定性情報から探るプロセスが重要です。
  • 経営者の発言や中期経営計画と、実際の財務数値の整合性や進捗状況をチェックします。
  • 自社のSWOT分析(強み・弱み・機会・脅威)の結果と、財務分析から見えてくる課題や可能性を照らし合わせます。

4. 分析結果からの示唆抽出とアクションへの展開:知識を行動へ

  • 分析を通じて明らかになった自社の強み・弱み、事業機会や潜在的リスクを整理します。
  • その洞察を、自身の技術戦略、担当する開発テーマの優先順位付け、コスト意識の向上などにフィードバックします。
  • 社内での会議や提案の場で、財務データに基づいた客観的な意見を発信したり、新たな施策を提案したりする際の根拠として活用します。

▼続きはこちら:ステップ3:専門分野の深掘りと応用 – 技術と財務のシナジー創出

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