就職活動の末に手にした内定、あるいは社内でのキャリアアップを目指した異動。胸に抱いた希望とは裏腹に、全く予想していなかった部署への配属辞令。多くの人が「配属ガチャに外れた…」と肩を落とす瞬間かもしれません。
しかし、その一見ネガティブに見える出来事が、実はあなたのキャリアにとって、この上ない”当たりくじ”である可能性を秘めているとしたらどうでしょうか。
今回は、「希望通りでない就職・配属」がなぜ良い結果をもたらしうるのか、その裏側にある経営戦略的な視点を交えながら、専門家も思わず頷くような考察を繰り広げていきます。
企業の「ヒト」は利益の生まれる場所に集まる
がっかりする気持ちは痛いほど分かります。しかし、少しだけ冷静になって、会社の視点から考えてみましょう。企業経営において、最も重要な資源の一つが「ヒト」、つまり人材です。そして、企業は利益を最大化するために、その貴重な人材を戦略的に配置します。
経営学の世界には、プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント(PPM) (Wikipedia) という考え方があります。これは、事業を「市場成長率」と「市場シェア」の2つの軸で4つのカテゴリーに分類し、経営資源をどこに集中させるべきかを判断するためのフレームワークです。
- 花形(Star): 市場成長率も市場シェアも高い、まさに成長中の事業。大きな利益が期待できる一方、競争が激しいため、トップシェアを維持・拡大するためには積極的な投資(人材、資金)が不可欠です。
- 金のなる木(Cash Cow): 市場成長率は低いものの、高い市場シェアを確保しており、安定的に大きな利益(キャッシュ)を生み出す事業。ここで得た利益が、他の事業への投資の源泉となります。
- 問題児(Problem Child): 市場成長率は高いものの、市場シェアが低い事業。将来「花形」になる可能性を秘めていますが、シェアを奪うためには多額の投資が必要です。市場から撤退するかの見極めも重要になります。
- 負け犬(Dog): 市場成長率も市場シェアも低い事業。利益貢献が少なく、事業の縮小や撤退が検討されます。
ここで重要なのは、「人手が足りないほど忙しい」部署は、多くの場合、この「花形」事業である可能性が高いということです。会社が「これから伸ばすぞ!」と意気込み、多くの人材を投入している真っ只中。仕事は次から次へと舞い込み、常に人手が足りない状態になりがちです。
つまり、あなたが配属された「希望通りではない部署」が、もし社内で最も忙しく、活気がある場所だとしたら、それは会社が利益の源泉とみなし、大きな期待を寄せている「花形部署」なのかもしれません。
希望外の配属がもたらす、キャリア上の3つの大きなメリット
こうした「人手が足りない=儲かっている」部署での経験は、あなたのキャリアに予想以上のプラスの効果をもたらします。
1. ポータブルスキルの高速習得
希望していた部署では得られなかったであろう、どこへ行っても通用するポータブルスキルが、猛烈なスピードで身につきます。 急成長する事業では、常に新しい課題や予期せぬトラブルが発生します。マニュアル通りに進まない仕事の連続は、まさに問題解決能力を鍛える最高のトレーニングジムです。次々と舞い込むタスクを捌くためのタイムマネジメント能力、多様な関係者と調整を行う交渉力など、厳しい環境だからこそ得られるスキルは、あなたの市場価値を飛躍的に高めるでしょう。
2. 社内での希少価値と信頼の獲得
多くの人が避けたがるようなタフな部署で踏ん張り、成果を出す経験は、あなたを「替えの効かない人材」へと成長させます。会社の収益の柱となっている部署での成功体験は、経営陣からも高く評価され、大きな信頼につながります。 将来、あなたが本当にやりたい仕事に就きたいと思った時、この「会社の屋台骨を支えた」という実績が、何より強い武器になることは間違いありません。
3. キャリアの視野が広がる
私たちは誰しも「自分はこういう仕事に向いているはずだ」という思い込みを持っています。しかし、それはまだ見ぬ可能性に蓋をしているだけかもしれません。 希望外の配属は、自分でも気づかなかった適性や、新しい仕事の面白さを発見する絶好の機会です。また、会社の利益がどのようにして生まれているのかを肌で感じることで、企業全体の動きを立体的に捉える視点が養われ、今後のキャリアを考える上での解像度が格段に上がります。
ただし、見極めは重要。「良い人手不足」と「悪い人手不足」
もちろん、すべての「人手不足」がキャリアのチャンスにつながるわけではありません。中には、単に労働環境が悪く、慢性的な人手不足に陥っているだけの「負け犬」事業である可能性もゼロではありません。
その見極めのために、以下の2つの点を確認してみましょう。
- その部署は会社の「未来」か?: 会社の決算資料や中期経営計画を見てみましょう。あなたのいる部署の事業が、今後の成長戦略の柱として明確に位置づけられていますか?会社がその事業に投資(新しい設備の導入や増員計画など)をしようとしていますか?
- 働く人の「目」は輝いているか?: 忙しさに疲弊しているだけでしょうか?それとも、困難な状況の中にも、事業を成長させるやりがいや使命感を持って働いている先輩はいますか?未来への希望が見える場所かどうかが、大きな分かれ道です。
もし、あなたのいる場所が会社の未来を担い、そこで働く人々に活気があるのなら。今は少し辛くても、そこは間違いなくあなたを成長させてくれる場所です。
まとめ
「配属ガチャ」という言葉が飛び交う現代。希望通りのキャリアを歩めないことに、不安や不満を感じるのは当然です。しかし、会社もまた、事業を成長させるために必死で戦略を練り、あなたという貴重な人材を「ここぞ」という場所に配置しています。
その意図を汲み取り、置かれた場所で自分に何ができるかを考え、主体的に価値を発揮しようとすること。その姿勢こそが、不確実な時代を生き抜くための最強のキャリア戦略と言えるでしょう。
希望通りでなかった配属辞令は、あなたを落胆させるものではなく、あなたのまだ見ぬ可能性を引き出すための、会社からの挑戦状なのかもしれません。