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普段我々が行政などを通して耳にする「都市計画」は、「都市」をどのように見ているのでしょうか。
「ルール」を定める都市計画、「場」を創る都市デザイン
もし都市づくりを演劇に例えるなら、都市デザインは、観客が感動するような舞台装置や照明、役者の動き(演出)を考える仕事です。それは、その「場」の質、体験、雰囲気を直接的に創り出す営みと言えます。
一方、都市計画は、そもそも「その劇場をどこに建てるか」「客席数はどうするか」「今後50年間、どのような演目を上演する方針か」といった、劇場全体の運営方針を定める仕事です。それは、演劇が公正かつ持続的に上演されるための「ルール」や「骨格」を定める営みです。
この例えから分かるように、都市計画が扱う「都市」は、個別の場所の質というよりも、もっと大きな構造やシステムとしての側面が強調されます。
都市計画が捉える「都市」の4つの本質
都市計画家が都市を見るとき、そこには少なくとも4つの重要な側面が浮かび上がります。
1. 土地利用の体系としての都市
都市計画の最も古典的かつ中心的な役割は、土地利用(ランドユース)のコントロールです。都市計画法における「用途地域」の指定がその典型です。
これは、都市という限られた空間を、住宅、商業、工業といった異なる機能にゾーニング(区分け)する作業です。なぜこれが必要かと言えば、「公共の福祉」を確保するためです。例えば、工場の隣に住宅があれば、騒音や公害で快適な生活は送れません。無秩序な開発が進めば、道路は渋滞し、必要な公共サービス(学校、病院など)も追いつかなくなります。
都市計画は、都市を機能の集合体とみなし、それらを合理的かつ効率的に配置することで、都市全体の安全性、快適性、機能性を担保しようとします。ここでの都市は、いわば巨大な「仕分けと配置のシステム」です。
2. 社会経済システムとしての都市
都市計画は単なる物理的な配置計画ではありません。それは、人口動態、経済活動、社会保障といった社会経済的な課題を解決するための手段でもあります。
- 人口減少・高齢化社会にどう対応するか? → 居住地や都市機能を集約する「コンパクトシティ」を計画する。
- 産業構造の変化にどう対応するか? → 新たな産業を誘致するための地区を計画し、インフラを整備する。
- 社会的公正をどう実現するか? → 所得層に関わらず誰もが良質な公共サービスにアクセスできるよう、公園、図書館、公共交通網を計画的に配置する。
このように、都市計画は、都市を「社会目標を達成するための器」として捉えます。その計画は、長期的な人口推計や経済予測といったデータに基づき、未来の社会像から逆算して描かれます。
3. 法と行政の客体としての都市
これは専門家が強く意識する点です。都市計画における「都市」とは、都市計画法などの法律に基づいて定義され、行政が介入・管理できる対象(客体)です。
計画の決定には、審議会での議論やパブリックコメントといった法的な手続きが不可欠です。そして一度決定されれば、その計画は開発行為を制限する法的な拘束力を持ちます。個人の自由な財産権(土地をどう使ってもよい権利)を一部制限してでも、都市全体の利益(公共の福祉)を優先させる。この公権力の発動こそが、都市計画の際立った特徴です。
ここでの都市は、個人の思惑の集合体ではなく、公的な意思決定によって形作られるべき一つの統治体として扱われます。
4. 長期的な資産(ストック)としての都市
道路、鉄道、上下水道、ダムといった都市インフラは、一度作れば数十年、時には100年以上にわたって利用されます。土地利用の計画も、一度決めると簡単には変更できません。
したがって、都市計画は必然的に超長期的な視点に立たざるを得ません。現在の世代だけでなく、未来の世代のニーズも見据えて、限られた土地や予算という資源をどう配分するかを決定します。
この文脈において、都市は「世代を超えて継承・管理していくべき巨大な資産(ストック)」として捉えられます。その資産価値を維持し、将来世代に過大な負担を残さないように管理(アセットマネジメント)することこそ、現代の都市計画の重要な責務です。
結論:都市計画とは「未来の社会構造を構想する営み」である
都市計画は、都市を「公共の福祉の実現に向け、法に基づいて長期的な視点で管理・誘導される、社会経済的な構造体」として捉えます。
それは、地図の上に線を引く作業のように見えて、その実態は、未来の社会のあり方を構想し、その実現に向けたルールと骨格を定めるという、極めて政治的で社会的な営みなのです。
都市計画が定めた大きな枠組み(ルール)の中で、いかにして人間的で魅力的な場所(場)を創り出していくか。そこに都市デザインの役割があります。この両者は対立するものではなく、異なるスケールと時間軸で都市の未来に貢献する、車の両輪なのです。
私たちが目にする都市の姿は、この目に見えにくい「計画」という名の巨大な意思の積み重ねの上に成り立っている。そのことを知れば、街の見え方も少し変わってくるのではないでしょうか。
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