「もっと経営者の視点で仕事をしてほしい」
上司や社長からそう言われて、戸惑ったことはありませんか?
多くの人が誤解していますが、社長の視座とは「偉そうに振る舞うこと」でも「全ての決定権を持つこと」でもありません。それは、情報の解像度と時間軸の捉え方の違いに集約されます。
今日は、精神論ではなく、明日から実践できる思考のフレームワークとして「社長の視座」を解説します。これを実践すれば、あなたの発言や提案は劇的に変わり、周囲からの信頼は一変するでしょう。
1. PL(損益計算書)ではなく、BS(貸借対照表)とCF(キャッシュフロー)で考える
一般社員や管理職の多くは、PL(売上と利益)の世界で生きています。「今月の売上目標」や「経費削減」が関心事の中心です。
しかし、社長の最大の関心事は「会社の存続」と「資産の積み上げ」です。
【具体的なアクション】
自分の仕事が「資産(アセット)」になっているかを問いかけてください。
- PL思考(一般社員): 「今月100万円売り上げた。頑張った。」
- BS思考(社長): 「この100万円の売上を作る過程で、再現性のあるマニュアルはできたか? 顧客リストという資産は増えたか? ブランド価値は向上したか?」
単発の売上で終わらせず、将来にわたって利益を生み出す「仕組み」や「信頼」という資産をBSに残せているか。この問いを持つだけで、仕事の質が変わります。
2. 「部分最適」の罠を捨て、「全体最適」の痛みを受け入れる
各部署のエースほど陥るのが「部分最適」の罠です。「自分の部署の利益」を最大化しようとして、他部署と対立したり、会社の長期的な利益を損なったりするケースです。
社長の仕事は、リソース(人・モノ・金)の配分です。時には、ある部署を縮小させてでも、成長分野に投資しなければなりません。
【具体的なアクション】
提案をする際、必ず「副作用」と「他部署への影響」をセットで語ってください。
- × 一般的な提案: 「営業の人員を増やしてください。そうすれば売上が上がります。」
- ○ 社長視点の提案: 「営業人員を増やすことで売上増が見込めますが、同時に開発部門への負荷が増え、品質低下のリスク(副作用)があります。開発部門の増員とセットで投資するか、一時的に納期を調整する判断が必要です。」
自分にとって不都合な真実も含めて、会社全体のバランスを見ようとする姿勢こそが、経営者の信頼を勝ち取ります。
3. 「時間軸」を3段階に引き伸ばす
現場の視点は「今日〜今四半期」です。しかし、社長は「今日」「3年後」「10年後」を同時に見ています。これを複眼思考と呼びます。
【具体的なアクション】
何か問題が起きた時、解決策を3つの時間軸で用意してください。
- 止血(今日): 今すぐトラブルをどう収めるか?
- 治療(3ヶ月後): 原因となった仕組みをどう改善するか?
- 体質改善(3年後): そもそもこの問題が起きない組織文化やビジネスモデルをどう作るか?
多くの人は「止血」だけで報告を終えます。「治療」と「体質改善」までセットで提示できた時、あなたは経営パートナーとしての資格を得ます。
4. 「正解」を探すのではなく、「決断」のリスクを計算する
学校教育や現場業務では「正解」を探すことが求められます。しかし、経営に正解はありません。あるのは「不確実な中での決断」と「責任」だけです。
社長は常に「もし失敗したら、最悪どの程度のダメージか?」を計算しています(ダウンサイドリスクの想定)。
【具体的なアクション】
「どうすればいいですか?」という質問を今日から禁止しましょう。代わりにこう言います。
「A案とB案があります。私はA案を推奨します。なぜならリターンが大きいからです。ただし、A案には〇〇という最大のリスクがあります。もしそれが起きた場合は、△△という撤退ラインを設けます。これで進めて良いでしょうか?」
正解を聞くのではなく、「撤退ライン(最悪のシナリオ)」を含めた仮説をぶつけること。これが経営者の孤独な意思決定を支える最大の貢献です。
5. 主語を「私(I)」から「市場(Market)」に変える
「私はこう思う」「部長がこう言った」という社内の論理は、経営においてはノイズでしかありません。社長が見ているのは常に、冷徹な「市場(顧客・競合)」の動きです。
【具体的なアクション】
会議での発言の主語を変えてください。
- Before: 「現場が疲弊しているので、値上げは難しいと思います。」
- After: 「競合他社の動向と顧客アンケートの結果を見ると、今値上げをするとシェアを5%失う可能性があります。」
社内の感情論ではなく、外部環境の事実(ファクト)に基づいて話す。社長と同じ「外の世界」を見ていることをアピールしてください。
まとめ:視座の高さは「想像力」の範囲で決まる
社長の視座を身につけるとは、自分が見ていない範囲まで想像を巡らせることです。
- BS/CF思考: 将来の資産まで想像できているか?
- 全体最適: 他部署や会社全体への影響を想像できているか?
- 時間軸: 3年後、10年後の景色を想像できているか?
- 決断のリスク: 最悪の事態を想像できているか?
- 市場視点: 社外の環境変化を想像できているか?
今日から一つでも構いません。この「問い」を自分に投げかけながら仕事をしてみてください。数ヶ月後、あなたの見ている景色は、間違いなく経営者のそれに近づいているはずです。