【不朽の蓄財哲学】本多静六『私の財産告白』 はなぜ今も参考になるのか?

本多静六(Wikipedia) は林学の専門であり、日比谷公園をはじめ数々の公園設計を手掛けたことでも知られています。(参考リンク:三田評論「日比谷公園から考えるほんとうのまちづくり」)彼はまた、その卓越した蓄財術と人生哲学で知られています。

著書『私の財産告白(Amazon) 』は、大正時代に書かれたにもかかわらず、現代の資産形成や自己啓発に関心を持つ人々にとって、今なおバイブルとして読み継がれています。なぜ、100年近く前の著作が、金融の専門家をも納得させ、私たちに示唆を与え続けるのでしょうか? その普遍的なエッセンスを紐解いていきましょう。

目次

時代を超えた「本多式」蓄財の原理原則

『私の財産告白』で語られる蓄財法は、奇をてらったものではありません。むしろ、現代の資産運用の専門家が口を揃えて推奨するような、堅実かつ再現性の高い原理原則に基づいています。

1.「四分の一天引き貯蓄法」の威力

  1. 内容: 収入の四分の一を、有無を言わさず貯蓄に回すという鉄則。臨時収入も同様に扱います。
  2. 現代的意義: これは「収入-支出=貯蓄」ではなく「収入-貯蓄=支出」という、現代の「先取り貯蓄(Pay Yourself First)」の考え方そのものです。強制的に貯蓄の仕組みを作ることで、浪費を防ぎ、着実に資産を積み上げる基盤となります。意志の力に頼らず、システムで貯蓄を継続する重要性は、行動経済学の観点からも支持されています。

2. 「本業に邁進し、余暇は執筆や投資に」勤勉さと複線的収入

  • 内容: 本多博士は、東京帝国大学の教授という本業に全力を注ぎ、その分野で大きな功績を残しました。その上で、余暇時間を利用して執筆活動や株式投資を行い、収入源を複数確保しました。決して本業をおろそかにすることなく、あくまで「余力」で行う点を強調しています。
  • 現代的意義: これは、現代でいうところの「本業+副業(複業)」の先駆けとも言えるでしょう。一つの収入源に依存するリスクを分散し、経済的安定性を高める考え方は、終身雇用が揺らぎ、働き方が多様化する現代においてますます重要性を増しています。ただし、本多博士が示したように、本業での実績と信頼があってこその副業であるという点は、現代の専門家も強調するところです。安易な副業推奨ではなく、自己の専門性を高め、社会に価値を提供し続けることの重要性を示唆しています。

3. 長期投資と「雪だるま式」複利効果の徹底活用

  • 内容: 本多博士は、短期的な市場の変動に一喜一憂することなく、優良な株式や不動産に長期的に投資し続けました。そして、得られた利益は再投資に回し、「雪だるま式」に資産を増やしていく複利の効果を最大限に活用しました。
  • 現代的意義: 「投資の神様」ウォーレン・バフェットも重視する「長期投資」と「複利の力」は、資産形成における最も強力な武器の一つです。市場の短期的なノイズに惑わされず、成長が期待できる対象に時間をかけて投資することの有効性は、数多くの研究や実績が証明しています。本多博士は、まだ投資という概念が一般的でなかった時代に、その本質を見抜き実践していた先見性には驚かされます。現代のインデックス投資や積立投資といった手法も、この長期・分散・積立という考え方が基礎にあります。

3.「生活は質素に、しかし卑しくなく」という生活哲学

  • 内容: 巨万の富を築いた後も、本多博士の生活は驚くほど質素でした。しかし、それは単なるケチではなく、目的(学問の研究や社会貢献)のための合理的な倹約であり、精神的な豊かさを重視する姿勢の表れでした。彼は「貧乏を楽しむ」とさえ表現しています。
  • 現代的意義: 物質的な豊かさだけを追い求めるのではなく、自分にとって本当に価値のあるものを見極め、シンプルで充実した生活を送ろうとする考え方は、現代のミニマリズムや「足るを知る」といった価値観と深く共鳴します。また、目標達成のために一時的に生活レベルをコントロールするという考え方は、近年注目されるFIRE(Financial Independence, Retire Early)ムーブメントにも通じるものがあります。お金に振り回されるのではなく、お金を人生を豊かにするための「手段」として捉える姿勢は、健全な金銭感覚です。

4. 絶え間ない自己投資と知識習得

  • 内容: 専門である林学の研究はもちろんのこと、経済や投資に関する知識も独学で貪欲に学び続けました。新聞や雑誌を熟読し、自分なりに分析・判断する力を養いました。
  • 現代的意義: 変化の激しい現代において、学び続けること(リスキリングやアップスキリング)の重要性は論を俟ちません。本多博士の時代以上に情報が溢れる現代では、正しい情報を見極め、主体的に学ぶ姿勢が不可欠です。金融リテラシーの向上の重要性を本田博士は身をもって示しています。

5. 最終的な「社会への還元」という高潔な目標

  • 内容: 本多博士は、蓄財の目的を単なる私的欲求の充足に置かず、最終的には奨学金制度設立など、社会に還元することを目指していました。そして実際にそれを実行しました。彼の蓄財は、あくまで社会貢献のための手段であり、お金に執着するのではなく、お金を「活かす」ことを考えていたのです。
  • 現代的意義: 近年、SDGs(持続可能な開発目標)やESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資が注目されるように、企業や個人の経済活動において「社会貢献」という視点がますます重要になっています。本多博士の考え方は、まさにこの先駆けと言えるでしょう。単に富を築くだけでなく、その富をどのように社会のために役立てるかという視点は、人生の満足度を高め、より大きな意義をもたらします。

なぜ『私の財産告白』は色褪せないのか?

本多静六博士の『私の財産告白』が、100年近い時を経てもなお、専門家をも唸らせ、多くの人々に影響を与え続ける理由は、その普遍性再現性、そして人間味あふれる哲学にあると言えるでしょう。

  • 普遍性: 博士が提唱する蓄財の原理原則は、時代や社会状況が変化しても変わらない本質を突いています。人間の心理や経済の基本的な仕組みに基づいているため、現代においても有効なのです。
  • 再現性: 特別な才能や環境に恵まれた人でなくても、努力と工夫次第で実践可能であることを、博士自身の経験をもって示しています。読者に「自分にもできるかもしれない」という希望と勇気を与えてくれます。
  • 人間味あふれる哲学: 単なるテクニック論に終始せず、勤勉、倹約、自己投資、社会貢献といった、人としての生き方や在り方まで踏み込んでいる点が、本書の大きな魅力です。お金儲けの先に何を見るのか、という問いに対する一つの答えを示してくれます。

現代に生きる私たちへのメッセージ

『私の財産告白』は、単なるお金儲けのノウハウ本ではありません。それは、人生をいかに豊かに、そして意義深く生きるかという問いに対する、本多静六博士からの力強いメッセージです。

情報が溢れ、将来への不安を感じやすい現代だからこそ、博士の堅実で地に足のついた生き方、そして社会を見据えた広い視野は、私たちに多くの示唆を与えてくれます。

もしあなたが、

  • 着実に資産を築きたい
  • 将来のお金の不安を解消したい
  • 仕事や人生における目標を見つけたい
  • 社会に貢献できる生き方をしたい

と考えるなら、ぜひ一度『私の財産告白』を手に取ってみてください。きっと、時代を超えて輝き続ける知恵と勇気を受け取ることができるはずです。

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