もし、人生の最後に「あなたの人生は、どれくらいの価値がありましたか?」と問われたとしたら、何をもってその価値を測るでしょうか。
多くの方が、無意識のうちに「貯蓄額」や「社会的地位」、「所有しているモノの価値」といった数字を思い浮かべるかもしれません。私たちは、社会で広く使われている「外部のモノサシ」で、自分の価値を測ることに慣れてしまっているからです。
しかし、一度立ち止まって考えてみてほしいのです。
たとえ最高級のディナーを前にしても、心が虚しければ味わうことはできません。たくさんの「いいね!」を集めても、孤独を感じていては満たされません。
一方で、たとえ質素な食事でも、大切な人と笑い合えれば心は温まります。誰にも評価されなくても、夢中になれる趣味の時間は何にも代えがたい喜びを与えてくれます。
本日は、これまでの価値観を少しだけ横に置き、新しい人生の捉え方をご提案させてください。
それは、「幸せ(ウェルビーイング)」こそが、私たちの人生の価値を決める究極の通貨である、という考え方です。
なぜ「お金」や「名声」だけでは満たされないのか?
まずご理解いただきたいのは、お金や名声が悪いわけでは決してない、ということです。それらは、人生を豊かにするための強力な「ツール(道具)」となり得ます。問題は、これらを人生の「目的」そのものにしてしまった時に生じます。
心理学には「快楽の踏み車(ヘドニック・トレッドミル)」(Wikipedia) という有名な言葉があります。これは、収入が増えたり、より良い環境を手に入れたりしても、その喜びにはすぐに慣れてしまい、また次の渇望が生まれてくる、という現象を指します。まるでルームランナーの上を走るように、どれだけ頑張っても幸福度は同じ場所からなかなか上がらないのです。
この現象の根底にあるのは、お金や名声が「相対的な価値」であるという性質です。常に他者との比較の中にあり、「あの人よりもっと」という終わりのない競争を生み出します。それは、まるで底の抜けたバケツで水を汲むような、満たされることのない消耗戦に繋がってしまいがちなのです。
あなたの「幸福の銀行口座」を記帳してみましょう
では、「幸福」という通貨はどのように異なるのでしょうか。
幸福は、誰かと比べる必要のない「絶対的な価値」です。あなたが「幸せだ」と感じたその瞬間、その価値は誰にも奪われることのない、あなただけの純粋な資産として心に蓄積されます。
ここで一度、ご自身の「幸福の銀行口座」の取引明細を振り返ってみませんか?最近、どのような「入金」があったでしょうか。幸福の源泉をいくつかの科目に分類してみましょう。
- 預金科目①:「繋がり」
- 内容: 他者との肯定的で温かい関係
- 取引例: 家族からの「ありがとう」という言葉、友人と時間を忘れて語り合った夜、同僚と目標達成の喜びを分かち合った瞬間
- 預金科目②:「成長・達成」
- 内容: 何かを成し遂げる、できるようになる喜び
- 取引例: 苦手なことに挑戦し少し上達した、仕事で成果を出せた、読書を通じて新しい視点を得られた
- 預金科目③:「貢献」
- 内容: 誰かの役に立っているという実感
- 取引例: 困っている人に親切にできた、自分の仕事がお客様の喜びにつながった、ボランティアや寄付で社会と関われた
- 預金科目④:「没頭・快楽」
- 内容: 時間を忘れて夢中になる、五感で感じる喜び
- 取引例: 趣味に没頭した時間、美しい景色に心を奪われた瞬間、美味しいものを味わった時の感動
これらの「幸福の入金」は、必ずしもお金で買えるものではありません。むしろ、私たちのありふれた日常の瞬間にこそ、価値ある資産が眠っていることに気づかされます。
「幸福度」という資産を増やすための、3つの具体的なアクション
「幸福こそが通貨である」という視点を持つと、日々の行動が「投資」に変わります。
つまり、人生のあらゆる選択を「この行動は、私の幸福度という資産を増やす投資になるだろうか?」という基準で判断できるようになるのです。
今日から始められる具体的なアクションを3つご紹介します。
- 「幸福の家計簿」をつけてみる(=資産の可視化)
一日の終わりに、その日にあった「幸福の入金」を3つ書き出してみましょう。「感謝日記」としても知られるこの習慣は、幸福度を高める効果があります。続けることで、自分が何に幸せを感じるのか(=高利回りの投資先)が明確になり、日常に隠れた資産を見つける感度が高まります。 - お金と時間の使い方を「経験」へシフトする(=投資先の最適化)
最新のガジェットを買う喜びも素晴らしいですが、その価値は時間と共に薄れがちです。一方で、大切な人との旅行の思い出や、新しいスキルを学ぶ経験は、時間が経つほどに心の支えとなり、輝きを増す「高配当資産」と言えるでしょう。
お金を使う時、時間を使う時、「モノの所有(消費)」から「記憶に残る経験」や「人との繋がり」、「自己の成長」へ投資することを意識してみてください。 - 「時間のポートフォリオ」を見直す(=資産配分の見直し)
私たちに平等に与えられた資産、それは「時間」です。あなたの1週間(168時間)という貴重な資産は、現在どのようなポートフォリオで運用されているでしょうか。もし、過度なストレスを感じる仕事や、気乗りしない付き合いといった「元本割れのリスクが高い投資」に多くの時間を費やしているなら、資産配分の見直しが必要です。
まずは週に1時間でも構いません。「幸福の銀行口座」への入金が見込める活動(趣味、運動、家族との対話など)に時間を再配分してみましょう。その小さな一歩が、長期的にはあなたの人生の総資産を大きく増やすことに繋がります。
おわりに:あなたの人生の「本当の価値」とは
人生の旅路の終わりに、私たちが手に持っていけるものは、銀行口座の数字でも、肩書きの記された名刺でもありません。
持っていけるのは、誰かと心から笑い合った記憶、何かに夢中になった情熱、そして誰かの役に立てたという温かい実感。そうした目には見えない「幸福の記憶」という名の資産だけです。
お金や名声ではなく、幸せこそが人生の価値を決める究極の通貨である。
この新しいモノサシを心に携えることで、私たちは日々の小さな選択から人生の大きな決断まで、もっと自由に、もっと自分らしく、そして何よりも豊かに行うことができるようになるはずです。
さあ、改めて皆様にお尋ねします。
あなたの「人生の銀行口座」、今日の残高は、いくらでしたか?