仕事をしていると、こだわりの強い上司に囲まれる場面がどうしても多い。それ自体は業界の宿命みたいなものだと思っているが、なかでも一番消耗するタイプがいる。指示が曖昧なのに、口調だけは激しい人だ。
「なんか違うんだよ」
「わかってないなあ」
この手の言葉は、感情の熱量は100なのに、情報量はほぼゼロである。何が違うのか、どこを直せばいいのかが含まれていない。それなのに口調が強いせいで、受け取った側は「理解できていない自分が悪い」と感じてしまう。ここに罠がある。
まず前提を変える
長く消耗してきて、ようやく腹落ちしたことがある。
言語化できない不満を声量で補っているのは、相手側の能力不足である。
デザインの良し悪しを感覚では判断できるのに、それを言葉に変換できない。その変換の失敗を、苛立ちと大きな声でごまかしている。つまり激しい口調は「あなたへの評価」ではなく「本人の言語化の敗北宣言」だ。この前提に立つだけで、同じ言葉を浴びてもダメージがかなり変わる。
実務でやっていること
前提を変えた上で、現場では次の4つを意識している。
1. 声の激しさと情報を切り離す
激しい言葉の中から「データ」だけを抽出する。「なんか違う」は指示ではなく感情表現なので、行動の材料としてはいったん無視していい。抽出すべきは「少なくとも現状のどこかに不満がある」という一点だけである。
2. 選択肢を出して具体化を強制する
曖昧な人は「何が違うか」を自分で言語化できない。しかし、選ぶことはできる。
「気になっているのは、配置ですか、スケール感ですか、それとも表現のトーンですか」
と2〜3択で返すと、驚くほどあっさり答えが出ることが多い。オープンクエスチョンで「どこが違いますか?」と聞き返すと相手はまた言語化に失敗して苛立つので、選択式にするのがコツだ。
3. 参照物で聞く
「イメージに近い事例やプロジェクトはありますか?」
抽象的な議論を続けるより、この一言のほうが格段に前に進む。言葉より事例で考えるのことも多いので、参照物を介したほうがお互いの誤解が減る。
4. その場で復唱し、あとで文書化する
「◯◯という方向で直す、という理解でいいですか」とその場で確認し、あとから短いメモやメールで残しておく。解釈が違えば相手が訂正する責任を負うことになるし、次に激しく言われたときには「前回の合意」という盾になる。板挟みや手戻りの多くは、この一手間で防げる。
それでもしんどいときは
テクニックで軽減はできるが、根本的には「曖昧なまま強く当たる」というコミュニケーションのコストを、部下側が一方的に払わされている構図に変わりはない。疲弊が慢性化しているなら、それは個人の耐性の問題ではなく環境側の問題として扱っていい。
業界には「厳しい指導=愛情」という文化がまだ残っているが、厳しさと曖昧さは別物だ。厳しくても具体的な指摘は人を育てる。曖昧で激しいだけの言葉は、人をすり減らすだけである。
一歩引いて「この人はいま言語化に失敗して苛立っているんだな」と観察者の位置に立つ。それができるようになったら、この種の上司との付き合いは半分くらい勝ちだと思う。